郵政民営化

政治と経済

郵政民営化は、2005年に小泉純一郎内閣によって推進された大規模な構造改革の一つです。

この改革は、国が運営していた郵便事業を民間企業に移行させることを目的としていました。

  1. 郵政民営化の概要
    1. 日本郵政株式会社
    2. 郵便事業株式会社(現・日本郵便株式会社)
    3. 郵便局株式会社(現・日本郵便株式会社の店舗)
    4. 株式会社ゆうちょ銀行
    5. 株式会社かんぽ生命保険
  2. 民営化の背景と目的
    1. 公的資金の無駄遣いへの批判
      1. 巨額の資金集中
      2. 財政投融資
      3. 無駄遣いへの指摘
    2. 競争原理の導入と効率化
      1. 民間との競合
    3. 労働組合の弱体化
      1. 組合潰しの側面
    4. アメリカからの要求/圧力
      1. 年次改革要望書
    5. 金融市場の開放
    6. 小泉純一郎首相の個人的信念と政治的戦略
      1. 長年の持論
      2. 「殺されてもいい」覚悟
      3. 郵政選挙
      4. 地方への補助金削減
  3. 民営化後の現状と評価
    1. サービス低下と利便性の喪失
      1. 郵便サービスの悪化
      2. 過疎地域の郵便局
    2. 経営状況の悪化と不祥事
      1. 郵便事業の赤字
    3. 株価の低迷
      1. 海外事業での失敗
      2. モラル低下と不祥事
      3. 財政投融資の減少
  4. 外資の影響
    1. 外資による利益
    2. 「中途半端な改革」という批判
      1. 民主党政権による見直し
      2. 民間企業との競争に敗北
    3. 民営化の再検討の動き
      1. 自民党内の改正案
      2. 再国有化の提言
  5. 当初の郵便局の役割と意義
    1. 税金を使わない自立経営
      1. ユニバーサルサービス
      2. 社会インフラとしての役割
      3. 公共事業の財源
      4. 職員のプライド
  6. 民営化に対する批判的な視点
    1. 国民のニーズとの乖離
    2. 「税金の無駄遣い」は嘘
    3. 政治家の責任問題
    4. グローバリズムの一環
    5. 「私物化」との指摘

郵政民営化の概要

かつて日本の郵便事業は、総務省の管轄下にある国営事業として「日本郵政公社」が一手に担っていました。

この事業は、郵便、郵便貯金(ゆうちょ)、簡易保険(かんぽ)の3つの主要な業務を行っていました。

民営化後、2007年から日本郵政公社は以下の5つの会社に分割されました。

日本郵政株式会社

持ち株会社

郵便事業株式会社(現・日本郵便株式会社)

郵便業務

郵便局株式会社(現・日本郵便株式会社の店舗)

郵便局窓口業務

株式会社ゆうちょ銀行

銀行業務

株式会社かんぽ生命保険

保険業務

これらの会社はそれぞれ独立した法人として「日本郵政グループ」を形成しました。

当初、ゆうちょ銀行とかんぽ生命は100%民間会社になる予定でした。

民営化の背景と目的

郵政民営化には、様々な背景と目的がありました。

公的資金の無駄遣いへの批判

巨額の資金集中

国営時代の郵便局には、郵便貯金と簡易保険を通じて約350兆円もの巨額な資金が集まっていました。

これは当時のシティバンクグループの預貯金120兆円をはるかに上回る、世界最大の金融機関でした。

財政投融資

これらの資金は日本政府に貸し出され、「財政投融資」として旧日本道路公団や住宅金融公庫などの特殊法人に融資されていました。

無駄遣いへの指摘

しかし、この資金が費用対効果を十分に考慮せず、赤字の高速道路建設など無駄な公共事業に使われているという批判がありました。

小泉首相は、無駄な公共事業を継続するためのゆうちょから政府へのお金の流れを断つことが、財政健全化への道筋であると考えていました。

また、官僚が勝手な予算で自由に資金を使うのを止める目的もありました。

競争原理の導入と効率化

民間との競合

郵便事業は運輸業、郵便貯金は銀行業、簡易保険は保険業とそれぞれ民間企業と競合する性質を持っていました。

小泉首相は、国がこれらを経営する必要があるのか疑問視し、民営化によって競争原理を導入し、効率性を高めることを目指しました。

労働組合の弱体化

組合潰しの側面

国営企業である郵便公社は、強力な労働組合が存在し、民営化は組合の力を弱める目的もあったという見方もあります。

アメリカからの要求/圧力

年次改革要望書

郵政民営化は、アメリカが日本政府に毎年提出していた「年次改革要望書」(現・日米経済調和対話)に盛り込まれた要求の一つでした。

金融市場の開放

特にアメリカの生命保険協会会長であるフランク・キーティング氏は、日本のかんぽ生命が市場機能を歪め、民間企業から仕事を奪っていると主張し、郵政民営化を繰り返し求めていました。

この背景には、日本郵貯・簡保の巨額な資金をアメリカの金融資本が狙っていたという見方があります。

実際に、民営化後にはモルガンやゴールドマンサックスといった外資系金融機関が運用に関与していました。

一部では、日本の財産をアメリカ企業に渡すため、あるいは日本を経済植民地にする計画の一部であったという厳しい批判もあります。

小泉純一郎首相の個人的信念と政治的戦略

長年の持論

郵政民営化は、小泉純一郎首相が1980年代から一貫して主張していた持論でした。

「殺されてもいい」覚悟

小泉首相は「殺されてもいい、郵政民営化を成し遂げるために国民の信を問う」と公言するほどの強い決意を持っていました。

郵政選挙

2005年8月、国会で郵政民営化法案が参議院で否決されると、小泉首相は衆議院を解散し、郵政民営化の賛否を唯一の争点とする総選挙(いわゆる「郵政選挙」)に打って出ました。

この際、自民党内で民営化に反対した議員の公認を外し、「刺客」と呼ばれる賛成派の新人候補を擁立する異例の戦略を取りました。

この結果、自民党は圧勝し、法案は可決・成立しました。

この行動は「自民党をぶっ壊す」というスローガンと結びつき、国民からの支持を集めました。

地方への補助金削減

地方への補助金が大幅に削減された結果、地方の人口減少が進み、これが郵便局の統廃合や整理の背景にあると指摘する声もあります。

民営化後の現状と評価

郵政民営化後の日本郵政グループの経営状況やサービスについては、様々な評価がなされています。

サービス低下と利便性の喪失

郵便サービスの悪化

民営化後、郵便サービスは低下したと指摘されています。

料金は上がり、土曜配達や翌日配達が廃止されるなど、利便性が失われました。

過疎地域の郵便局

以前はワンストップで受けられた貯金・保険・郵便サービスが解体され、採算が取れない過疎地域の郵便局は統廃合や閉鎖が進んでいます。

経営状況の悪化と不祥事

郵便事業の赤字

郵便事業は赤字に転落し、かつて郵便・貯金・保険の3事業一体で運営されていた国営時代は、郵便事業の赤字をゆうちょ銀行とかんぽ生命の利益で補填する構造でした。

現在も、ゆうちょ銀行とかんぽ生命から日本郵便に対し、年間1兆円もの業務委託費が支払われることで、地方の郵便局の赤字が補填されている状況です。

株価の低迷

日本郵政の株価は2015年の上場以降、右肩下がりで、投資家からの評価は低い状態です。

海外事業での失敗

特に、オーストラリアの物流大手トール・ホールディングス買収(6,200億円)では、その後に4,300億円もの特別損失を計上し、さらに2,500億円の追加出資が行われた結果、実質的に約8,200億円もの損失を出したと指摘されています。

モラル低下と不祥事

日本郵政グループ全体でガバナンスの欠如やモラル低下が指摘されています。

かんぽ生命では、高齢者を中心に不適切な保険契約(二重払い、不必要な乗り換えなど)が多数行われ、18万件で顧客に不利益を与えた可能性があり、3,300人もの社員が処分されました。

他にも、郵便局長による顧客資金の着服、顧客情報紛失、郵便物廃棄隠匿など、多数の不祥事が明るみに出ています。

財政投融資の減少

郵政民営化の目的の一つであった公的資金の無駄遣い停止も、ゆうちょの資金が企業への貸し出し能力を身につけられなかったため、国債運用に流れ、結果として公共事業の財源としての役割は変わっていないと批判されています。

ゆうちょの資金はピーク時の300兆円から190兆円まで減少しました。

外資の影響

外資による利益

民営化により、外資系企業が日本の郵便・貯金・保険の巨大な市場から利益を得る構造が生まれました。

一部の評論家は、これは日本が経済植民地化されたと強く批判しています。

「中途半端な改革」という批判

民主党政権による見直し

郵政民営化の完了前に政権交代が起こり、民主党政権が民営化を抜本的に見直しました。

その結果、ゆうちょ銀行とかんぽ生命が完全に独立した民間会社になるはずだったのが、旧来の郵便局内で銀行業務や保険業務を継続する形に戻され、事実上民営化が骨抜きになってしまいました。

民間企業との競争に敗北

中途半端な民営化の結果、日本郵便はヤマトや佐川に、ゆうちょ銀行はメガバンクに、かんぽ生命は日本生命や第一生命といった既存の民間競合他社に全く太刀打ちできていないと指摘されています。

決断は外科手術と同じであり、中途半端な実施は最悪の結果を招くという意見もあります。

国民が熱狂した郵政民営化は、「最も中途半端で最悪の結末」を迎えたという評価も存在します。

民営化の再検討の動き

自民党内の改正案

現在、自民党内では郵政民営化法の改正を目指す動きがあり、日本郵政と日本郵便の合併案や、ゆうちょ銀行とかんぽ生命の株式保有を一定割合以上で継続する案などが検討されています。

郵便事業の維持のために、政府による財政支援措置も創設される可能性があります。

また、外資規制の導入や金融2社への上乗せ規制の一部緩和も盛り込まれる予定です。

再国有化の提言

郵政事業を再び一体化し、公的なものに戻すべきだという意見も根強く存在します。

当初の郵便局の役割と意義

国営時代の郵便局は、単なる事業体以上の重要な役割を担っていました。

税金を使わない自立経営

明治時代に創業された郵便事業は、郵便・貯金・保険の3事業一体で運営され、税金に頼らず自立採算で事業を行っていました。

ユニバーサルサービス

全国津々浦々に均一の料金でサービスを提供する「ユニバーサルサービス」を担っており、都市部と地方でサービスの質や料金に差をつけることはありませんでした。

社会インフラとしての役割

地域住民にとって重要な社会インフラであり、貯金や保険の窓口としてだけでなく、高齢者の安否確認など、地域に根ざした役割も担っていました。

公共事業の財源

郵便貯金などで集められた巨額の資金は、新幹線や学校建設など、日本の公共事業やインフラ整備の重要な財源として活用され、日本の経済成長に貢献しました。

職員のプライド

郵便局員は国家公務員として、国民のために働くというプライドを持って業務に当たっていました。

民営化に対する批判的な視点

郵政民営化については、現在に至るまで様々な批判がなされています。

国民のニーズとの乖離

「国民は誰も求めていなかった」との声があり、一部では人気のある総理がマスコミを煽り立てて選挙へ突入し、強引な戦略で民営化を実現したという見方もあります。

「税金の無駄遣い」は嘘

民営化の際に「税金の無駄遣いが減る」と宣伝されましたが、実際には郵政3事業に税金は1円も使われておらず、嘘だったという指摘があります。

政治家の責任問題

政治家が当時の「政治権力を握ろう」として行った改革によって国民が損害を被る構図が批判されています。

グローバリズムの一環

郵政民営化は、国境のない統一市場や国際金融資本の利益を追求する「グローバリズム」の一環であり、日本の伝統的価値観や国家の基盤を破壊するものであったという強い批判もあります。

「私物化」との指摘

「民営化(privatization)」は実質的に「私物化」であり、国民の財産を一部の勢力が奪い取ったものだという見解も示されています。

これらの情報から、郵政民営化は多岐にわたる側面を持ち、その評価は複雑であることが分かります。

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