保守思想とは、その歴史的背景

政治と経済

「保守」は、一般的に「革新」、「改革」、そして「革命」(ひっくり返すこと)といった、変化や作り替えを志向する概念の反対概念として使用される言葉です。

保守思想は、単に古いものに固執することではなく、むしろ歴史、伝統、慣習、そして法(コモン・ロー)を信頼し、それらを維持しようとする考え方です。

以下に、保守思想の歴史的背景、主要な思想、および論点を詳述します。

歴史的起源とコモン・ローの尊重

保守思想の概念は、イギリスの歴史、特に国王の権力制限を求める闘争の中で発展しました。

コモン・ローの保護

保守の思想家たちは、国王の絶対主義や専制政治を認めるものでは断じてないどころか、むしろその逆の立場を取ります。

彼らが守ろうとしたのは、イギリス古来の「コモン・ロー」(慣習法)です。

コモン・ローは以下の要素を包括します。

  1. イギリス古来の不文法(文字になっていないアングロサクソンの古い習慣)。
  2. 裁判所の判例。
  3. 古いしきたりや慣習。

このコモン・ローは、当時の国王による恣意的な支配や独裁から、英国臣民の財産、生命、自由、道徳を守ってきたものだとされています。

王権の制限

13世紀の法学者ヘンリー・ブラクトンは、「国王といえども神と法の元にあり。なぜなら法が王を作るからである」と述べました。

これは、まず法が存在し、王はその法の中の一部であるという考えであり、王であっても法に逆らってはならないという原則を示しました。

17世紀の法律家エドワード・コークは、マグナ・カルタ(大憲章)を再発見し、王権神授説を唱える国王ジェームズ1世に対し、「国王といえどもコモン・ローに従わなければなりません」と主張しました。

コークは、国家の絶対権力である主権は国王にはないという考えに基づき、王権の制限を求めました。

保守思想の主要な哲学的前提

保守主義は、主に人間の能力や社会の設計可能性に対して懐疑的な立場を取ります。

人間の理性の限界(懐疑主義)

保守主義の根幹の一つは、人間の理性を疑うという懐疑主義です。

エドマンド・バークの思想によれば、人間個々の理性には限界があります。

文明とは、「幾世代もの人間の経験と無意識の集積」であり、特定の時代の人間(現代人)が、自分たちの理性だけで現在ある社会を根本的に変えてしまうことは、祖先から受け継いだ「遺産」を否定し、大きな失敗につながると考えます。

また、チェスタトンは、狂人とは「理性以外のあらゆるものを失った人」であり、理性だけで全てを解決できるという思想(ルソー的な思想)を誤りだと批判しました。

漸進主義(ゆっくりとした改革の容認)

保守思想は、社会全体を破壊する革命には反対しますが、ゆっくりとした社会の改革は認めます(漸進主義)。

コモン・ロー自体が固定的なものではなく、判例の蓄積などによって時代に応じて発見され、追加され、変わっていくものだからです。

過去の文脈を引き継いでいれば、その上で変えることは知恵が生きているため問題がないとされますが、ある瞬間に根本的全てを潰し去ることは間違っているという考え方です。

社会有機体説

人間はバラバラの個人として存在する以前に、社会の一員として生まれているという前提に立ちます。

社会は、共通の習慣、伝統、宗教、法を共有する「ネーション(民族)」が作る「有機体」(生物)のようなものだと考えます(社会有機体説)。

この有機体において、君主や王は社会を支配する者ではなく、社会を仕切っているルール(慣習法)の下にあり、社会全体の「一機関」あるいは「一部」に過ぎないと見なされます。

政治・経済における保守

民主主義への不信感

アレクサンダー・ハミルトンは、人間は悪である(性悪説)という立場から人間を信用せず、民主主義に対して強い不信感を持っていました。

彼のような立場では、民主主義の暴走を抑え込むことが重要となり、権力分立(三権分立)は特に議会(立法府)の暴走を止めるために導入されました。

フランス人のトクビルもまた、民主主義を「多数派の専制」として危険視し、民主政治の質は大衆の知的レベルに左右されると指摘しました。

自由市場の尊重と設計主義の否定

経済学者のハイエクは、人間が市場の全ての動きを知り、コントロールすることは不可能であると主張しました。

共産主義やファシズムに見られる、少数のエリートによる「設計主義的合理主義」に基づいて社会をコントロールしようとすることは、文明を破壊すると批判されます。

代わりに、社会経済の自然発生的な秩序の中で生まれてきた法や市場経済(慣習として生まれてきたマーケット)を守るべきだとされます。

革命の評価

保守思想はフランス革命を強く批判します。

バークは、フランス革命が独裁、弾圧、そして最終的に軍事独裁(ナポレオン)に至ることを予見しました。

ハンナ・アーレントは、革命(レボリューション)という言葉が元々、天体の回転運動を意味し、「(本来の体制への)復古」を意味していたと指摘しました。

彼女はフランス革命が貧困問題を解決するために強制力を伴う独裁(ジャコバン派の恐怖政治)に陥ったのに対し、アメリカ革命は広大な土地があり貧困層が西部へ移動できたため、強制力を必要とせず、個々人の自由を実現した最初の革命であったと評価しました。

保守思想において、社会を根本的に破壊する行為は、過去の死者たちから受け継いだ伝統(コモン・ロー)を無視し、法と秩序を破壊する行為であると見なされます。

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