プラシーボ効果
プラシーボ効果とは、薬理的な有効成分を含まない偽薬(ぎやく)を服用したり、無効な治療を受けたりした場合でも、患者の症状が改善する現象を指します。
この効果は、有効成分がないにもかかわらず、本人が「効果がある」と強く信じたり期待したりする「思い込み」によって引き起こされます。
語源と歴史
プラシーボ(Placebo)はラテン語で「私は喜ばせる」という意味が語源です。
元々は、薬が入手できない患者や、自分が病気だと強く思い込んでいる患者の症状を改善するために、医師が工夫として効果のない偽薬を有用なものとして投与したことに由来すると考えられています。
プラシーボ効果が最初に科学的な調査結果として報告されたのは1955年頃で、ハーバード大学の麻酔科医ビーチャー氏による実験です。
彼は1082人の患者を対象に、食塩水の注射や乳糖などの偽薬を処方したところ、なんと約35%の患者の症状がはっきりと改善したと報告されています。
メカニズム(脳内での反応)
プラシーボ効果のメカニズムは完全には解明されていませんが、その根底には医師や治療に対する信頼感や、薬が効くという期待感があるという意見が大半を占めます。
期待感の発生と神経伝達物質の分泌
偽薬を本物だと信じて服用すると、「症状が良くなる」という期待感が高まります。
この期待感が引き金となり、脳幹からドーパミンなどの神経伝達物質が分泌されます。
具体的な身体反応
放出された神経伝達物質は、体に対して期待に応えようとするプラスの反応を引き起こします。
例えば、痛みを和らげるためには、脳からオピオイドという鎮痛作用を持つ物質が実際に分泌されます。
脳科学的な裏付け
プラシーボ効果が働いている時、脳の活動状態を調べると、痛みを感じる脳の部位(体性感覚野)が実際に活性化していないことが確認されています。
これは単なる「気のせい」ではなく、脳科学的にも痛みが減少していることを示唆しています。
プラシーボ効果は、痛み、不眠、うつ状態など、心理的な影響が大きい症状に対して特に効果を発揮しやすいと言われています。
プラシーボ効果の具体的な事例
記憶力テストの先入観
高齢者のグループに「記憶力テスト」を行うと低い成績でしたが、「心理学テスト」として実施すると若者と同等の成績が得られました。
これは、高齢者が「自分は年をとったから記憶力に自信がない」という先入観によって実力を発揮できなかった(プラシーボ効果/ノーシーボ効果の一種)ことを示しています。
作業の意識化
ホテル従業員に、日々の作業(ベッドメイキングなど)の消費カロリーを記した表を渡したところ、作業が健康に良いと意識したグループは、同じ作業内容にもかかわらず、体脂肪が減り、血液の健康度が向上し、身体年齢が若返るという結果が得られました。
価格の影響
同じ成分の偽薬であっても、価格が高いほど「効果があるに違いない」という期待感が高まるため、プラシーボ効果が強く発現します。
ある実験では、痛み止めの偽薬の価格を約1/25に下げたところ、痛みが軽減したと報告した参加者の割合が半数に減少しました。
期待の力
がん患者ライト氏の事例では、医師が新薬だと偽って無菌水を注射したにもかかわらず、患者が薬に期待したことで劇的な回復を遂げました。
ノーシーボ効果(負のプラシーボ効果)
プラシーボ効果が「思い込みがプラスに働く」現象であるのに対し、「思い込みがマイナスに働く」現象をノーシーボ効果(ノセボ効果)と呼びます。
ノーシーボ(Nocebo)はラテン語で「私は傷つける」という意味です。
ノーシーボ効果は、たとえ有効成分のない偽薬であったとしても、「副作用があるかもしれない」と思い込んだり、治療法に対して不信感を抱いたりすることで、本当に症状の悪化や副作用が生じてしまう現象です。
例えば、漆アレルギーを持つ人に無害な樹液を塗りながら「漆を塗る」と嘘を告げたところ、全員にアレルギー症状が現れたという実験事例があります。
臨床試験における重要性
プラシーボ効果は、薬が実際に効いているのかどうかを判断する際に、結果を曖昧にしてしまう要因となるため、医薬品の臨床試験では非常に重要視されています。
新薬の認可が下りるためには、偽薬(プラセボ)と比較して明確な優位性を示す必要があります。
このため、本物の薬と外見、味、重さなどが全く同じ偽薬が用意され、誰が本物の薬を飲んでいるのか、患者だけでなく、投与する医師、薬剤師、看護師にも分からないようにして試験が行われます。
これをダブルブラインドテストと呼び、薬の真の効果を明確にするために徹底されています。
結局、プラシーボ効果は、人間が心や意識の持ちようによって、良くも悪くも、自身の身体に大きな影響を及ぼしていることを示しています。
私たちは、自身が実践する行動(運動や瞑想など)の効果を意識することで、そのメリットを最大化できる可能性も示唆されています。


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