為替ストラテジスト、佐々木融さん著書、「ビッグマックと弱い円ができるまで」
ビッグマックで見る日本と世界の経済
ビッグマックを作るためには、パンとハンバーグ、チーズ、ピクルス、玉ねぎ、レタスなどが必要なので、これらの材料を買うお金が必要となります。
このハンバーグを焼く機械など、電気代やガス代がかかります。
またマクドナルドで働く人に払うお給料もかかります。
このほかにもいろいろな人件費がかかります。
アメリカのビッグマックは850円
日本ではビックマックは480円でアメリカで850円です。
マクドナルドはアメリカの会社ですが、お店は世界中にあり、ビックマックはアメリカでも日本でも大体同じサイズで味もほとんど変わりません。
なぜアメリカのビックマックは、日本と同じ大きさなのに、日本の1.8倍も高いのでしょうか?
答えは、円と米ドルの交換レートが原因です。
日本で使われているお金は「円」です。
アメリカで使われているお金は「米ドル」です。
1部例外もありますが、ほとんどの国では、自国通貨で物やサービスを買うことができません。
世の中にはたくさんの国があるので、たくさんの通貨が存在します。
それぞれの通貨と通貨の交換比率のことを「外国為替相場」といいます。
通貨と通貨の交換は毎日世界中で頻繁に行われているので、外国為替相場は日本の月曜日の早朝からアメリカの金曜日の夕方まで常に変化しています。
今よりももっと米ドルが高くなって、縁が弱くなったら、アメリカのビックマックはもっと高くなってしまいます。
ドル高=円安となると、アメリカでのビックマックの値段は上がります。
インフレ
2023年の日本の消費者物価指数(CPI)は、2022年に比べて+4%も上昇しました。
これは1981年以来42年ぶりの高い伸び(インフレ率)となりました。
このインフレは主に円安によるコストプッシュ型のインフレといえます。
世界のビッグマックの円建て価格(2024年7月)
- スイス(1214円)
- ウルグアイ(1064円)
- ノルウェー(1018円)
- アルゼンチン(985円)
- ユーロ圏(912円)
- イギリス(887円)
- アメリカ(854円)
- デンマーク(851円)
- コスタリカ(846円)
- スウェーデン(842円)
- カナダ(830円)
- ポーランド(792円)
- レバノン(773円)
- メキシコ(767円)
- サウジアラビア(762円)
- オーストラリア(761円)
- ニュージーランド(751円)
- シンガポール(748円)
- ベネズエラ(747円)
- コロンビア(738円)
- UAE (737円)
- トルコ(704円)
- チェコ(697円)
- クウェート(689円)
- ペルー(684円)
- チリ(683円)
- イスラエル(680円)
- バーレーン(678円)
- ニカラグア(653円)
- ブラジル(636円)
- ホンジュラス(619円)
- グアテマラ(602円)
- 韓国(601円)
- オマーン(598円)
- ハンガリー(587円)
- カタール(579円)
- パキスタン(575円)
- タイ(570円)
- アゼルバイジャン(544円)
- モルドバ(538円)
- ルーマニア(531円)
- 中国(531円)
- ヨルダン(531円)
- 日本(480円)
- ベトナム(453円)
- 香港(443円)
- ウクライナ(433円)
- マレーシア(431円)
- フィリピン(430円)
- 南アフリカ(429円)
- インド(413円)
- エジプト(372円)
- インドネシア(370円)
- 台湾(343円)
過去24年間で、アメリカではビックマックを買うのに必要な米ドルが2.5倍に増え、米ドルと交換するのに必要な円が105円から150円に増えました。
ビックマックが世界の中で割安なのは悪いことなのか?
日本のビッグマックの価格がアメリカよりも大幅に安くなっているのは2つのことが影響しています
1つは、アメリカのビッグマックの米ドル価格の上昇率が、日本のビックマックの円価格の上昇率より大幅に大きいことです。
もう一つは、円が対米ドルで大幅に安くなっていることです。
つまり、アメリカではビックマック1つを買うのにより多くの米ドルを必要とするようになっているのに、それに加えて、その米ドルと交換するのにより多くの円を必要とするようになっていると言うことです。
ものやサービスの価格が上昇すると言う事は、お金の価値が下落していることを意味します。
逆に物やサービスの価格が下落すると言う事は、お金の価値が上昇していると言うことです。
日本国内で閉じた世界では、円の価値はさほど下がっていないのに、国際的に見ると、円の価値が大幅に下がっていると言うことになります。
そしてそれはお給料を円でもらっている我々の労働の価値が世界の中で低く評価されていることを意味します。
物やサービスとお金の交換が活発に行われていない状態を経済が弱いといいます。
国内総生産(GDP)
国内総生産は、一定期間に国内で生産されたものや提供されたサービス全体の付加価値の合計を示すデータとなっています。
付加価値と言うと、わかりにくいかもしれないが、新しく生み出された価値のことを示します。
もう少しわかりやすく言えば、利益とほぼ同じ意味だと考えればいいです。
経済活動はものを作ったり、そのものを仕入れて、違うものを作ったり、それを売ったり買ったり、食べたり飲んだり、遊んだりと様々な人があるときは、作る側、あるときは買う側になって動き続けています。
ただ物やサービスを提供する側に利益がないと、経済活動は続かなくなっていきます。
だから、経済活動から発生する利益の総額を見たものがGDPとなります。
よく世界一の経済大国はアメリカで昔は日本が2位だったのに、今では中国ドイツに抜かれて4位になったと言う話をされることがあるが、これも1年間のGDPの大きさを比べています。
こうした比べ方は規模なので、例えば人口が多い中国が有利と言うこともいえます。
経済が強いか、弱いかを比べるときにはGDPの増加率で見るほうがいいです。
このGDPの増加率のことを経済成長率と読んだりもします。
購買力平価
ある国とある国で、物やサービスの価格が同じになる為替レートのことを購買力平価といいます。
アメリカでは、ビックマックが5.69ドル、日本では480円だから、480円÷ 5.69ドル= 84円が米ドルと円相場の購買力平価となります。
今の米ドルは1ドル150円位だから、大幅に円安ドル高となってしまっていることがわかります。
弱い円ができるまで
日本銀行
日本の場合、お札(銀行券)は、財務省の下にある独立行政法人国立印刷局と言うところが製造、印刷しています。
パスポートや切手等も、ここが製造、印刷しています。
お札(銀行券)の場合、それを日本銀行が引き取って発行しています。
だから、お札(銀行券)には「日本銀行券」と印字されています。
日本のお金はいつから円になったのか?
日本のお金の単位は、1871年に新貨条例で円と定められました。
1871年は明治4年、つまり江戸時代が終わり、明治時代が始まって、数年後の、廃藩置県が行われたのと、同じ年にお金の単位も変えられました。
江戸時代には、金銀銭貨からなる幕府貨幣や藩札、洋銀など、様々な貨幣が通用していて混乱していました。
しかし、廃藩事件で明治政府が税金の徴収や軍隊を一手に収めることになり、通貨も統一する必要があったことが背景となっています。
1871年に円と定められたときには純金1.5グラムを1円とする金本位制が導入されました。
これは当時のアメリカのドルも、ほぼ同量の金= 1ドルだったことが影響しています。
つまり、日本のお金の単位が円と決まったときの米ドル、円相場は1ドル= 1円だったことになります。
円は、国内で効力のある通貨として定められているので、物やサービスの対価として支払う場合、受け取り側は円での受け取りを拒否することができません。
ただし、法律で1回の使用につき、同一金種で20枚までと定められています。
つまり250円のものを購入するのに10円玉25枚で支払おうとしたら、お店は受け取りを拒否することができます。
1ドル= 360円
関東大震災後に貿易赤字が増えて、1ドル= 2.5円まで円安が進んだ後、日本は1度金本位制に戻ったのですが、それとほぼ同じタイミングの1929年10月にアメリカで株価が暴落し、世界経済は大不況に陥りました。
世界も日本も物価が下落するデフレの状態となってしまいました。
そうした中で、高橋是清は、1931年に再び金本位制を止めました。
そして、デフレ脱却のために、財政支出を大幅に増加させ、満州事変の戦費調達のために、政府が発行する国債を日銀が買い取る(日銀による国債引き受け)ことを発表しました。
この政策により、政府は多額の国債を発行し、日本銀行に国債を売り、お金を調達し使うことができるようになりました。
この結果、日本はデフレを脱却することができたのですが、目的を達成したことにより日銀による国債買取、財政支出拡大を止めようとした高橋是清は、緊縮財政を不満に思った軍部に226事件で暗殺されました。
その後日本は国際発行が激増し、それを日本銀行が買い取ることで、財政支出は大幅に拡大します。
それもあり、日本は戦争に突入することになり、戦争の間も同じことが続けられて、戦後も復興資金が必要だったために、日本のインフレ率は大幅に上昇しました。
1949年にGHQが設定した、貿易など、一般的に利用される単一のドル円相場が1ドル= 360円でした。
つまり、アメリカより日本の方が圧倒的にインフレ率が高かったということです。
1ドル= 75円
第二次世界大戦後、世界の通貨体制はブレトンウッズ体制と言って、各国の通貨と米ドルの交換比率を固定した上で、一定の条件下で米国が1トロイオンスの金と35ドルとを交換することを認めるようになりました。
1971年に米国が1トロイオンス(31グラム)の金と35ドルと交換することを停止したことによって、ブレトンウッズ体制は事実上崩壊し、1973年以降、各国は変動相場制へと移行しました。
こうした国際通貨体制の変化の中で、1978年には1時1ドル= 170円台まで急落しています。
この時の円高ドル安は、日本経済の強弱ではなく、国際通貨体制の変化が背景にありました。
1980年代半ばにドル円、相場は1ドル= 250円前後から120円程度まで急落します。
この時は、日本を含む世界の主要5カ国で、米ドル高を是正するために、各国が強調して市場介入を実施することを決めたプラザ合意がきっかけとなって、ドル円相場が大きくドル安円高方向へ動きました。
日本がこの時点で主要5カ国に入っていることからもわかるように、80年代までに日本経済は急成長を遂げていて、日本経済が強かったことが円高の背景だったとも言えないこともありません。
1990年代に入って、バブル経済が崩壊した後も、2011年までの約20年間は円高が続きました。
この時は日本経済が強かったから円高になったのではなく、基本的には日本の貿易黒字が引き続き大きかったことと、縁が強くなり、海外投資が割安になっても、日本人があまり海外に投資をしなかったことも重要な要因であったと考えられます。
2012年以降、円安
1970年代から2011年までの円高時代が終了して、円安時代への流れが始まったのは2012年12月ごろからです。
円安が進んだ理由として、主に3つの変化が影響していると考えられます。
日本企業による海外への投資
1つ目は日本企業による海外への投資(対外直接投資)の急増です。
日本企業が海外へ投資するためには、円を売り外貨を買う必要があるため、円安要因となります。
貿易赤字
2つ目は、日本の貿易収支が、それまでの黒字傾向から赤字傾向に転換したことです。
貿易赤字は、輸出より輸入の方が多いことを意味して、円売りの方が多くなり、円安要因となります。
日本の貿易収支は1990年代から2010年まで平均して、年間10兆円以上の黒字を記録していました、
2011年以降赤字幅が拡大し2014年には12.8兆円の赤字を記録しました。
日本企業が海外に生産移管を進めたので、輸出があまり伸びなくなった一方輸入が増え、食料品、医薬品等の貿易赤字も増加しました。
金融緩和
3つ目は第二次安倍政権が発足し、安倍ノミックス3本の矢の1つとして、極端な金融、緩和、政策、つまり超低金利の時代が続いたことです。
日本の政策金利は2016年にはマイナスになり、10年もの国債金利は長い間0%台の状況が続きました。
これに加え、世界でインフレ率がこれまで以上に高くなり始めたこともあります。
これはコロナ禍やロシアによるウクライナ侵攻も影響していますが、そもそも世界全体で労働者が少なくなり、様々なものを生産したり、サービスを提供するコストが上がり始めていると言う傾向は既に始まっていました。
この結果、その他の主要国はいち早く金利を上げたため、日本との金利差が拡大しました。


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