結論から言うと、大きな政府が適している時期もありますが、小さな政府が適している時期もあります。
大きな政府は間違っている
かつて、すべての資本主義国において、大きな政府は常に正しく、小さな政府は常に悪いと言うイデオロギーがもてはやされていた時代がありました。
第一次世界大戦で大して打撃を受けなかったアメリカは、混乱するヨーロッパをよそに経済成長を続けて、黄金の20年代と呼ばれるほどに繁栄を極めます。
当時のアメリカには、ヘンリーフォードと言う天才的な経営者が出現しました。
「少品種大量生産」「労働者の購買力拡大」「労使協調」など後の日本の高度成長にもつながる「フォーディズム」のもと、史上初の大衆消費者会、及び車社会がアメリカで花開きます。
1929年10月、市場原理主義、すなわち「小さな政府」を推奨する経済学者の1人、アーヴィング・フィッシャーが、アメリカのイェール大学で聴衆に向かって、「株式市場は高値の安定期に達した。以後はここから上昇していくだけである」と説いた直後に、ウォール街の株価の大暴落が始まった。世界恐慌の始まりである。
ダウ株価指数は、1932年6月にはピーク時から89%も下落しました。
日本のバブル崩壊は日経平均が39,000円台から最終的には7000円台まで落ち込んだがこれを上回る下落率です。
1929年に始まる大恐慌で、アメリカの失業率は1933年には25%にまで高まります。
国民一人当たりの実質GDPは1929年からの4年間で52%も減少したんです。
1932年のアメリカ国民は、1929年と比較して、半分に満たない所得で生計を立てて、労働人口の4人に1人が失業しました。
これほどまでにバブル崩壊や恐慌経済(デフレ経済)は恐ろしいのです。
小さな政府が通じなくなった時代
株式バブルが崩壊した後の恐慌経済下において、市場原理主義派の経済学者たちは、アメリカの高い失業率は賃金や価格が固定されているためである。不況は労働者や企業により低い対価を受け入れさせる。結果不況はすぐに終わると繰り返した。
市場原理に委ねれば、不健全な株式、農民、労働者などが淘汰され、経済は正常な状態を取り戻すと言う考え方です。
「ゾンビ企業を延命させるのは良くない」と日本のバブル崩壊後に主張した経済評論家がいました。
全く同じことを、当時のアメリカの経済学者たちも言っていたのです。
現在も同様ですが、バブル崩壊後の恐慌、デフレジに、市場原理主義的な経済政策は何の役にも立ちませんでした。それどころか事態は却って悪化し、アメリカのGDPはおよそ半分まで落ち込んでしまいます。
GDPとは付加価値(生産)や支出の合計であると、同時に、国民の所得(分配)の合計でもあります。
生産面のGDP、支出面のGDP、そして分配面のGDPは必ず一致し、俺をGDPの三面等価と呼びます。
あまりの惨状にフーバー大統領は、大統領選で完敗してルーズベルト政権が誕生します。
アメリカは小さな政府路線から、ケインズ的な大きな政府路線に舵を切り、何とか恐慌から脱出したのである。
世界的に市場原理主義や小さな政府の評判は地に落ちます。
大きな政府は常に正しく、小さな政府は常に悪いと言う極端な状況になってしまったんです。
第二次世界大戦後にケインズ政策を続けた主要国は別の問題を引き起こします。
経済政策をイデオロギーで決めるな
第二次世界大戦後、恐慌でもないにもかかわらず、西側先進国がケインズ的な政策にシフトした結果、政府の負債残高は拡大していきます。
政府の負債残高よりも早いペースでGDPが増えていれば問題はありません。
一時的には西側先進国は政府負債拡大を上回るペースで経済成長を達成して、その時期は資本主義の黄金期でもありました。
ところが西側先進国がこぞってヘンリーフォード流に労働者の賃金を引き上げていった結果、国民の購買力は高まったが、同時に高い人件費によって企業が投資意欲を失ってしまったんです。
企業が投資意欲を失うと経済成長率は鈍化します。
当時の先進国の賃金は、国民経済の水準と比較してあまりに高くなりすぎていました。
人件費を支払うために、企業は価格を引き上げ、各国は見事に成長率が鈍化する中、物価が上がり続ける状態、すなわちスタグフレーションに陥ってしまいました。
しかも、タイミングが悪いことに、1973年に第4次中東戦争が勃発し、OPECに加盟するヘルシア湾岸の産油6カ国が原油公示価格を一気に70%も引き上げることを発表します。第一次オイルショックです。
各国のスタグフレーションは深刻化して、今度はケインズ主義、あるいは大きな政府に対する信頼が失墜する結果になりました。
インフレかデフレかで政策は変わる
その後1980年代に英米で小さな政府路線の新自由主義が興隆し、今度は小さな政府が常に正しく大きな政府は常に悪いと言う認識が世界的に共有されます。
経済の歴史を振り返ると結論は明らかです。
小さな政府が適している時期もあれば、大きな政府が適している時期もあるんです。
時期や環境と無関係に小さな政府が常に正しい、大きな政府こそが常に正しい、と叫ぶのは、経済でも政策でもなく、単なるイデオロギーしかないんです。
小さな政府、大きな政府が正しい時期や環境とはとても単純で、インフレ時には小さな政府路線が正しく、デフレ時には大きな政府路線が正しいと言うだけである。
日本のマスコミが大好きな「財政健全化」「生産性向上」「規制緩和」「構造改革」「民営化」「自由貿易」などは本来インフレ対策です。
財政健全化とは需要の抑制であり、生産性向上、規制緩和、構造改革、民営化、自由貿易は、いずれも「供給能力」の拡大になります。
デフレギャップと言う問題を抱える日本がこれらのインフレ対策を実施すれば、供給能力はこれまで以上に拡大するのに需要が抑制されて状況が悪化するだけです。
逆にインフレ時にもかかわらず「公共投資拡大」「減税」などのデフレ対策を実施すれば、これもまた状況を把握させます。
国内の供給能力が不十分な状況で、現実の重要が伸長する一方になり、インフレ率が急騰してしまうんです。
要するに、あらゆる政策は、常に正しいわけでも常に間違っているわけでもないんです。単純に正しい時期があると言うのが真実です。
結局のところ、小さな政府や大きな政府が、それぞれ異なった「経済学」と言う学問に由来しているのが問題なのかもしれません。
小さな政府派の経済学を学んだ人は大きな政府的な政策を嫌悪します。逆もまた当てはまります。
大きな政府と小さな政府の違いを簡単に説明すると以下のようになります。
大きな政府
特徴
政府の役割が大きく、経済や社会の様々な面に介入します。
具体例
福祉サービス(医療、年金など)が手厚い、公共事業(道路、橋など)に多額の投資をする、企業活動への規制が多いなど。
考え方
政府が積極的に動くことで、社会の安定や公平性を保てると考えます。困っている人を助けたり、格差を是正したりする役割を重視します。
メリット
経済が安定しやすい、社会保障が充実している、格差が是正されやすい。
デメリット
税金が高くなりやすい、政府の非効率性が生じやすい、個人の自由な選択が制限される場合がある。
小さな政府
特徴
政府の役割が小さく、経済や社会への介入を最小限に抑えます。
具体例
福祉サービスは必要最低限にとどめる、公共事業は民間に任せる部分が多い、企業活動への規制が少ないなど。
考え方
市場の自由な競争が最も効率的であり、政府の介入は経済の活力を損なうと考えます。個人の自由や自己責任を重視します。
メリット
税金が安くなりやすい、経済の活力が向上しやすい、個人の自由な選択が尊重される。
デメリット
格差が拡大しやすい、社会保障が不十分になる可能性がある、経済の変動が大きくなる場合がある。
大きな政府と小さな政府
大きな政府は「皆で支え合い、社会全体を良くしよう」という考え方に近く、政府が積極的に介入して問題解決を図ります。
小さな政府は「個人の自由と自己責任を重んじ、市場に任せよう」という考え方に近く、政府の介入は最小限にとどめます。
どちらが良いかは、その国の歴史、文化、国民の価値観、そして直面している課題によって異なります。


コメント