香害(こうがい)は、「香りによる害」を意味し、洗剤や柔軟剤、香水などの強い香りの成分によって、不快感や健康被害が生じる社会問題です。
香害の定義と主な症状
香害は、日常生活で一般的に使われている製品に含まれる人工的な合成香料や化学物質が原因となり、健康被害を引き起こす現象です。
主な症状には、以下のものが挙げられます。
全身症状
頭痛、めまい、吐き気(嘔吐)、疲労感、倦怠感、体のふらつき、不眠、気分が落ち込む(鬱)、下痢、腹痛。
呼吸器・粘膜症状
咳、喘息、息苦しさ(呼吸困難)、目のかゆみ、涙が出る。
皮膚症状
じんましんや発疹、かゆみなどの過敏症状。
健康な人であれば許容できる極めて微量な化学物質との接触でも症状が生じると言われています。
香害の原因物質と発生源
香害を引き起こす原因物質は、家庭用品などに含まれる合成香料を中心とする化学物質です。
主な発生源
香害の発生源となるものは、私たちの身の回りに広く存在します。
日用品
柔軟剤、合成洗剤、芳香剤、消臭・除菌スプレー、香水、化粧品、シャンプー、リンス、整髪料、衣類の防虫剤。
環境要因
排気ガス、殺虫剤、除草剤、農薬散布、タバコの匂い。
柔軟剤などに含まれる危険な化学物質
特に柔軟剤では、香りを長持ちさせるための技術や成分が、健康被害を増大させていると考えられています。
陽イオン界面活性剤(Quat/クオット)
柔軟剤の主成分であり、衣類を柔らかくする作用があります。
第4級アンモニウム塩が含まれており、これは細胞膜を破壊する強力な殺菌剤(毒性のある刺激物質)として知られています。
ヒトの肌の細胞膜も壊す可能性があり、皮膚トラブルの原因となります。
香料(合成香料)
香りの成分のほとんどは人工の揮発性化学物質であり、体内で分解されにくく蓄積される危険性があります。
香料保留剤として添加されるフタル酸エステルは、内分泌撹乱物質であり、発がん性や生殖毒性があるとされています。
マイクロカプセル
香りを長続きさせるために、直径数マイクロメートル(μm)の小さなカプセルに香料成分を閉じ込める技術が使われています。
カプセルの素材は、プラスチック(メラミン樹脂、ポリウレタン、イソシアネートなど)でできており、摩擦などで破れると香りが放出されます。
その微細さゆえに、洗濯後に下水処理場をすり抜け海洋汚染の原因(マイクロプラスチック)となるほか、吸い込むと気管支や肺の奥まで入り込み、喘息や呼吸器系疾患、肺がんを誘発する可能性が指摘されています。
イソシアネートは吸い込むと咳、息切れ、喘息などの健康被害につながる毒性を持っています。
化学物質過敏症(CS)との関係
香害は、化学物質過敏症(CS)という病気と深く関わっています。
概要
化学物質過敏症は、食品添加物や柔軟剤などに含まれる化学物質をわずかに吸い込んだり触れたりするだけで、様々な症状を起こす疾患です。
病態
ごく少量の物質にも過敏に反応する点ではアレルギー疾患に似ていますが、低濃度の化学物質に繰り返しさらされることで体内に蓄積され、慢性的な症状をきたす中毒性疾患に近い性格も兼ね備えていると考えられています。
発症と現状
誰でも発症する可能性があり、突然症状が出ることもあります。
一旦発症すると、それまで大丈夫だった化学物質や異なる種類の化学物質(多種化学物質過敏症)にも反応するようになる傾向があります。
患者数
国内に100万人以上の患者がいると推定されており、2025年には1500万人に達するとも試算されています。
治療・対策
治療法は確立されておらず、可能な限り化学物質から離れることが唯一の対処法となります。
社会的な課題と影響
香害は、個人的な不快感に留まらず、社会生活全般に深刻な影響を及ぼしています。
日常生活の困難
強い香りで体調を崩すため、患者は外出や仕事、学校への参加が困難になります。
電車の中で気分が悪くなったり、学校の教室が柔軟剤の匂いで充満し、学校に行けなくなる子どもも増えています。
診断の難しさ
症状が頭痛や疲労感などの不定愁訴(原因不明の体調不良)にわたるため、医学的に認知されにくく、心因的なものと誤解されて精神科に回されるケースもあります。
香りの文化と嗅覚疲労
2000年代後半に強い香りの柔軟剤がブームとなったことをきっかけに、香りを「清潔感」や「高印象」と結びつける価値観が広まりました。
また、香りに慣れる(嗅覚疲労)という性質があるため、使用者は自分の匂いの強さに気づきにくく、かえって使用量を増やしてしまう傾向があります。
香害を防ぐための対策と配慮
香害は、他者が使用する製品によって体調が左右されるという不条理な側面を持つため、周囲の配慮が不可欠です。
周囲の人々ができる配慮
使用の自粛・制限
公共の場や人が集まる場(学校、職場、病院、公共交通機関など)では、香料を多く含む製品(柔軟剤、香水、芳香剤など)の使用を控えるように配慮しましょう。
適正量の使用
柔軟剤などの使用量が過度にならないよう、メーカーが推奨する量を守って適正に使用することが重要です。
啓発活動
国(消費者庁、文部科学省、厚生労働省、経済産業省、環境省)も合同で、香害と化学物質過敏症に関する啓発活動を行っています。
個人ができる対策
製品の見直し
香りの強い合成洗剤や柔軟剤、消臭剤などの使用を控え、無香料の製品を選ぶようにします。
自然な代用品の利用
洗濯の際には、天然成分でできた石鹸や、重曹、クエン酸などで代用できます。
環境の整備
定期的に換気を行い、化学物質を室内に溜めないようにすることが大切です。
体調管理
規則正しい生活やバランスの取れた食事を心がけ、体の解毒機能をサポートすることも重要です。


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