酵素は、生命活動に不可欠なタンパク質の一種で、体内で起こる様々な化学反応を円滑に進める「生体触媒」として機能します。
酵素の基礎
定義
酵素は、生物が作り出す触媒作用を持つタンパク質です。
触媒とは、それ自身は変化せずに化学反応を促進する物質を指します。
特異性
酵素の最大の特徴は「基質特異性」です。これは、特定の酵素は特定の物質(基質)にしか作用しない、鍵と鍵穴のような関係があることを意味します。
例えば、デンプンを分解するアミラーゼは、タンパク質や脂肪を分解することはできません。この特異性のおかげで、体内では数千種類もの酵素がそれぞれの役割を正確に果たしています。
作用条件
酵素は、一般的に温和な条件(体温に近い35〜40℃、pH7付近の中性)で最も活性を発揮します。
タンパク質であるため、熱や極端なpHの変化によって構造が壊れ(変性)、機能を失ってしまうことがあります。
酵素の作られ方
酵素は、主に細胞内で作られます。
その生成過程は、他のタンパク質と同様に、DNAの遺伝情報に基づいて行われます。
遺伝情報の読み取り(転写)
細胞の核内にあるDNAの特定の遺伝子領域から、酵素の設計図となるRNA(mRNA)が作られます。
タンパク質合成
mRNAは核から細胞質のリボソームへと移動し、そこでmRNAの情報を基にアミノ酸が連結され、一本のタンパク質の鎖が合成されます。
立体構造の形成
合成されたアミノ酸の鎖は、自然に折りたたまれたり、シャペロンなどの他のタンパク質の助けを借りたりして、特定の機能を持つための複雑な立体構造を形成します。
この立体構造が、酵素が基質と結合し、化学反応を触媒するために非常に重要です。
修飾・成熟
必要に応じて、合成された酵素タンパク質は、さらに化学的な修飾(糖鎖の付加など)を受けたり、特定の場所へ輸送されたりして、機能を持つ成熟した酵素となります。
特に消化酵素など分泌される酵素は、小胞体やゴルジ体といった細胞小器官を経由して分泌されます。
酵素の役割
酵素は、私たちの生命活動を維持するために多岐にわたる重要な役割を担っています。大きく分けて、以下の2種類の酵素があります。
消化酵素
働き
食物中の大きな分子(炭水化物、タンパク質、脂質など)を、体が吸収できる小さな分子(ブドウ糖、アミノ酸、脂肪酸など)に分解する役割を担います。
例
アミラーゼ
唾液や膵液に含まれ、デンプンを糖に分解します。
プロテアーゼ
胃液(ペプシン)や膵液(トリプシン)に含まれ、タンパク質をアミノ酸に分解します。
リパーゼ
膵液に含まれ、脂肪を脂肪酸とグリセリンに分解します。
分泌場所
口、胃、膵臓、小腸など、消化器官で分泌されます。
代謝酵素
働き
消化吸収された栄養素を利用して、エネルギーを作り出したり、新しい細胞を合成したり、体内の老廃物や毒素を排出したりするなど、生命維持に必要なあらゆる化学反応を促進します。
例
エネルギー産生
栄養素からATP(アデノシン三リン酸)というエネルギー通貨を作り出す反応に関わる酵素。
解毒作用
体内の有害物質を無毒化し、体外へ排出する反応に関わる酵素。
細胞の修復・再生
傷ついた細胞を修復したり、新しい細胞を作り出したりする反応に関わる酵素。
免疫機能
免疫細胞の働きをサポートし、病原体から体を守る反応に関わる酵素。
存在場所
体内の全ての細胞に存在し、それぞれの細胞で様々な代謝活動を支えています。
食物酵素との関係
体外から摂取する酵素(食物酵素)は、生の野菜や果物、発酵食品などに含まれています。
これらは体内で消化酵素の働きを助け、体内酵素の消耗を抑える役割があると考えられています。
消化酵素の働きが節約されることで、より多くの代謝酵素を生命活動に使うことができるという考え方もあります。
このように、酵素は私たちの体内で絶えず働き、健康を維持するために欠かせない存在です。


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