ムーンショット計画は、2050年までに、人が身体、脳、空間、時間の制約から解き放たれた社会を実現することを目的とした、日本政府(内閣府)が主導する長期的な科学技術イノベーション政策です。
この計画は2020年1月に開催された総合科学技術イノベーション会議で公式に発表されました。
「ムーンショット(Moonshot)」という言葉は、未来社会を展望し、実現すれば社会に大きなインパクトをもたらす壮大な目標や挑戦を指し、その語源はアポロ計画に由来しています。
日本が抱える少子高齢化、労働力不足、地球環境問題、資源の枯渇といった様々な社会問題を解決するために設定されました。
ムーンショット計画の主な目標
現在、ムーンショット計画には10個の目標が掲げられており、そのうち特に注目されている目標や、技術開発が進む分野がいくつかあります。
目標1:身体、脳、空間、時間の制約からの解放
この目標は計画の中で最も有名であり、「サイバネティックアバター(CA)生活」の実現を目指します。
サイバネティックアバター(CA)とは
身代わりとしてのロボットや3D映像などのアバターに加え、人の身体的、認知的、および知覚的能力を拡張するICT技術やロボット技術を含む概念です。
望む人は誰でも、これらの能力をトップレベルまで拡張できる社会を目指しています。
身体・空間・時間の制約からの解放
遠隔操作技術により、ユーザーは物理的に離れた場所にあるアバターやロボットを通じて作業やコミュニケーションが可能になります。
高齢や病気で体が不自由な方でも、家に居ながらにして農作業を行ったり、遠隔地で専門医が診察や手術を行ったり、旅行気分を味わったりできます。
また、義肢などのロボット技術が発達することで、事故などで身体の一部を失った場合でも何ら不自由なく生活を送ることが可能となり、身体の制約から解放されます。
アバターの複数操作
2030年までに、1人が10体以上のアバターを同時に、単体のアバターと同等の速度と精度で操作できる技術を開発する目標があります。
これにより、1人が同時に複数の作業を行うことができ、生産性を向上させ、忙しい時間から解放されることが期待されています。
脳の制約からの解放
神経接続や意識のデジタルコピー、バックアップなどが構想されています。
これにより、アルツハイマー病などの神経系の病気の治療や、意識を新しい体に移すことで「デジタル上の不老不死」の時代が来る可能性も指摘されています。
目標3:AIとロボットの共進化と共生
AIとロボットが自ら学習し行動し、人と共に成長し共生する社会の実現を目指します。
人間に寄り添うロボット
人間と同じ感性や身体能力を持ち、人生に寄り添って共に成長するAIロボットの実現が目指されています。
家事代行ロボット
すでに、調理(スクランブルエッグなど)、洗濯、トイレ掃除などの家事作業を行うロボット「アイレッグ」が公開されています。
アイレッグは、事前に学習していない料理でも、既存の知識を応用して作ることができます。
自然な会話能力
人間のような自然な話し方や、言葉が重なったり相槌を打ったりする同時双方向対話モデルが開発されています。
目標8(気象制御)
2050年までに、激甚化する台風や豪雨を制御し、極端風水害の脅威から解放された安全な社会の実現を目指します。
これは、台風や豪雨の強度、タイミング、発生範囲などを変化させる制御技術の開発を指しています。
政府関係者によると、これは非常にハードルが高く、「神の領域」に近い技術だとされています。
目標10(フュージョンエネルギー)
2023年12月に追加された最新の目標であり、フュージョンエネルギー(核融合エネルギー)の多面的な活用を目指します。
地上の太陽
太陽や星を輝かせるエネルギーと同じ原理(核融合反応)を地上で人工的に起こすことを目標とし、「地上に太陽を作る技術」として研究されています。
クリーンエネルギー
化石燃料に依存しないクリーンなエネルギーであり、二酸化炭素の排出がないため地球温暖化対策としても有効です。
また、海水を燃料にできるため、エネルギー資源の少ない日本にとって大きなメリットがあります。
その他の関連技術と現状
ムーンショット計画は、内閣府が主導しつつ、多くの企業や研究機関が参画しています。
スマートシティ
トヨタ自動車は、快適なモビリティとクリーンエネルギーで健康的な生活を実現するスマートシティ「ウーブンシティ」を静岡県裾野市に建設しており、2024年に第一期工事が完了する予定です。
五感の再現技術(フィールテック)
NTTドコモは、人間の五感を再現する技術として「フィールテック」を開発しています。
プロのピアニストの動きを共有する触覚共有技術や、味覚をデジタルデータとして記録し、電気信号で再現する「フィールテックスプーン」などが含まれます。
ロボット技術の進展
海外では、テスラ社が二足歩行ロボット「オプティマス」を開発し、2026年からの一般販売が予定されています。
また、中国や香港の研究チームは、どのような姿勢や環境からでも素早く立ち上がれるAIロボットを開発しており、災害現場や介護の現場での活用が期待されています。
計画への懸念と評価
ムーンショット計画は、その目標の壮大さから、しばしばSF的、あるいは陰謀論的として捉えられがちです。
政治的背景
この計画は、経済産業省などが失敗してきた具体的な産業振興策とは異なり、あえて抽象的な目標を掲げることで、民間からの自由で大胆な発想(イノベーション)を引き出し、そこに資金と人を集める土壌づくりを目的としている、という見解もあります。
社会的影響への懸念
技術の発展により、人間が仕事をする必要がなくなり堕落してしまうのではないかという懸念、あるいは、行動がすべて監視・管理される「超管理社会」が到来するのではないかという不安も示されています。
また、AIやロボットによる生産性向上の恩恵が、能力や個性を拡張できる富裕層に集中し、格差がさらに拡大するという見解もあります。
ムーンショット計画は、現在の社会問題を解決し、人類が時間、空間、身体の制約から解放される未来を目指す、日本政府による国家的な挑戦です。
この計画が実現すれば、藤子・F・不二雄氏が描いた『ドラえもん』の世界(ロボットと人が何不自由なく共生する未来)が現実となる可能性も示唆されています。


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