日常生活における行動経済学

学び

行動経済学は、従来の経済学が「人間は常に合理的に判断し行動する」という前提に立つのに対し、「人間は感情や心理的バイアスによって非合理的な判断をすることもある」という視点を取り入れた学問です。

私たちの日常生活のあらゆる場面で、この行動経済学の理論が応用されています。


以下に、日常生活における行動経済学の具体例をいくつかご紹介します。

買い物・消費行動

無料お試しキャンペーンと現状維持バイアス

携帯電話の初月無料オプションや、試食・無料サンプルは、一度手に入れると「せっかくだから」「もったいないから」とそのまま継続してしまう「現状維持バイアス」を利用しています。

返品が面倒に感じる心理もこれに該当します。

「〇〇円引き」と「〇割引」

セブンイレブンが「全品〇〇円引き」というキャンペーンをよく行うのは、割引率よりも割引金額の方がお得に感じる「フレーミング効果」を利用しているためです。

アンカリング効果

最初に出された価格が基準となり、その後の価格が安く感じられる現象です。

高級品店で最初に非常に高価な商品を見せられ、その後数十万円の商品を見ると「安く感じる」という心理が働きます。テレビショッピングで次々とオマケがつくのも、アンカリング効果を狙ったものです。

サンクコスト効果(埋没費用)

これまでに費やした時間やお金がもったいないと感じ、本来ならやめるべき行動を継続してしまう心理です。

スタンプカードを貯めきろうと頑張る、マンガサイトの無料試し読みから有料サービスへ移行してしまう、などが例として挙げられます。

プロスペクト理論

人は「利益を得る喜び」よりも「損失を回避する痛み」を強く感じる傾向があります。

「今買わないと損をする」「〇日まで半額セール」といった表示は、この損失回避の心理を刺激し、購入を促します。

おとり効果

3つの選択肢がある場合に、特定の選択肢がより魅力的に見えるように仕向ける手法です。

例えば、高価な商品Aと安価な商品Bがある場合、Aに近いけれど少し劣る商品Cを加えることで、Aがより魅力的に見えるようになります。

ナッジ(行動を軽く促す仕掛け)

強制ではなく、さりげない働きかけで行動を促す手法です。

レジ袋有料化

レジ袋が必要な人に「申請カード」を提示させたところ、辞退者が大幅に増えました。

これは、カードを提示する手間という「簡単な行動を選択する」ナッジの要素が働いた例です。

男性用トイレのハエの絵

オランダのスキポール空港の男性用トイレで、小便器にハエの絵を描いたところ、小便が床を汚すことが減り、清掃費用が8割削減されました。これは、無意識にハエを狙うという人間の行動を利用したナッジの成功例です。

放置自転車対策

「自転車を放置しないでください」という警告ではなく、「ここは自転車捨て場です。ご自由にお持ちください」と変更したところ、自転車が持ち去られることを恐れて放置が減りました。

健康・生活習慣

運動の継続

「今日だけ休もう」という小さな決断が、運動をやめるきっかけになることがあります。

行動経済学では、「友人や家族に運動の成果を報告する」「目標を小さく分割して達成感を得る」「運動しないとペナルティが課される仕組みを作る」といったアプローチが、運動を継続するために有効とされています。

食生活の改善

スーパーで無糖飲料を手にとりやすい場所に陳列したり、カップ麺を食塩量が少ない順に並べたりすることで、消費者が健康的な選択をしやすくなります。

貯蓄・節約

「なぜ人は将来のためにお金を貯めることが難しいのか?」という疑問に対し、行動経済学では「先延ばしバイアス」が要因とされます。

このバイアスを克服するための具体的な方法(例:自動積立設定など)が提案されています。

禁煙・ダイエット

目標を明確にし、達成状況を可視化したり、仲間と共有したりすることで、継続を促すことができます。

冷蔵庫の利用改善

冷蔵庫にペンと用紙を設置し、利用者が名前と日付を記入するように促すことで、冷蔵庫内の整理が改善された事例があります。

これは、記入の手間を減らす「ナッジ」の応用です。

職場・組織

長時間労働

「夏休みの宿題を後回しにする」ように、仕事を先延ばしにしてしまう「現在バイアス」が、長時間労働の一因となることがあります。

モチベーション

お金だけでなく、社会的承認や達成感といった非金銭的インセンティブが、人々の労働意欲に影響を与えることが行動経済学で指摘されています。


このように、行動経済学は私たちの「非合理性」を理解し、その上でより良い選択ができるよう、また、社会をより良くするために様々な場面で活用されています。

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