アダム・ハート著書、うんこの世界の内容を参考にしました。
細菌とは?
細菌は、地球上で最も古く、最も数の多い生命体の一つです。
私たち人間の体の中にも外にも、常に無数の細菌が存在しています。
人の体にはおよそ100兆個の細菌が棲みつき、その総重量は1〜2キログラムにも及びます。
細菌は、単細胞で自ら分裂して増殖する微生物ですが、単に感染や病気を引き起こす存在ではありません。
多くの細菌は、食べ物の消化を助け、免疫を整え、ビタミンを生成するなど、生命維持に欠かせない働きをしています。
本書では、「細菌を敵と見るのではなく、共に生きる仲間として捉えること」が健康の基本だと説かれています。
バランスがすべて
腸内には善玉菌・悪玉菌・日和見菌という3種類の菌が共存しています。
これらの菌のバランスこそが、健康か不調かを左右します。
善玉菌が優勢であれば腸内環境は整い、免疫力が高まり、便通もスムーズになります。
しかし、悪玉菌が増えすぎると、ガスや毒素が発生し、便秘・肌荒れ・免疫低下などの原因になります。
アダム・ハートは「細菌の世界では“バランス”こそが秩序である」と述べています。
細菌を排除しようとする極端な清潔志向や抗菌生活は、むしろこのバランスを崩し、人間の健康を損なう結果を生むのです。
細菌がすべての答え
著者は、「人間という存在を理解するうえでの答えは細菌にある」と主張しています。
人間の身体機能の多くは、細菌との共生関係によって成り立っています。
たとえば、消化、免疫、防御反応、さらには感情や思考に至るまで、細菌の働きが深く関わっています。
近年では、「うつ病や不安症が腸内細菌の乱れと関係している」という研究も進んでおり、細菌はもはや単なる“体内の付属物”ではなく、“人間の一部”として見なされるようになっています。
細菌を理解することは、自分自身の体と心を理解することでもある、というのが本書の核心的メッセージです。
大腸菌O157
O157は、腸内に自然に存在する大腸菌の一種が、突然変異によって毒性を持つようになったタイプです。
通常の大腸菌は、人の腸内でビタミンを作り、消化を助ける善良な存在です。
しかし、O157のように毒素(ベロ毒素)を出す株が体内に入ると、激しい下痢や血便、腎臓障害などを引き起こすことがあります。
本書では、「同じ大腸菌でも善にも悪にもなり得る」という点を通して、細菌を単純に“良い・悪い”で分けられない複雑さを説明しています。
つまり、細菌の世界は常に変化とバランスの上に成り立っているのです。
サルモネラ菌
サルモネラ菌もまた、細菌の「二面性」を示す存在です。
食中毒を起こすことで有名ですが、自然界では動物や鳥類の腸内に常在し、環境の循環を支える役割も果たしています。
本書では、サルモネラ菌の例を通して、「細菌は人間の敵として存在しているわけではない」という点を強調します。
問題は細菌そのものではなく、「人間がどのようにそれと接するか」です。適切な衛生管理と、無菌を求めすぎない自然な接触のバランスが重要だと述べられています。
抗生物質
抗生物質は、細菌感染を抑えるために20世紀最大の発明と呼ばれました。
しかし、その多用によって新たな問題が生じています。それが「耐性菌」の増加です。
細菌は驚くほど早く進化し、抗生物質に対して抵抗力を持つようになります。
これにより、通常の治療が効かない感染症が増えています。
著者は、抗生物質の使いすぎによって腸内の善玉菌まで殺してしまい、結果的に免疫力や消化機能が弱まる危険性を指摘しています。
本書では、「細菌と戦う」のではなく、「細菌とうまく付き合う」方向へ医療や生活を変えるべきだと提言しています。
細菌は天然の栄養サプリメント
私たちの腸内細菌は、ビタミンB群やビタミンK、短鎖脂肪酸など、体に必要な栄養を自ら作り出しています。
これらは、食事だけでは十分に摂れない栄養素を補う「天然のサプリメント」のような働きをしています。
たとえば、乳酸菌が作る乳酸は腸内を酸性に保ち、有害菌の繁殖を防ぎます。
また、酪酸菌が作る酪酸は、大腸細胞のエネルギー源になり、腸の粘膜を守ります。
つまり、細菌は体内で栄養を生産・供給する“見えない工場”でもあるのです。
腸と脳のつながり
腸と脳は「腸脳相関」と呼ばれるネットワークでつながっています。
腸内細菌が作る物質は、神経伝達物質として脳に影響を与えることが分かっています。
例えば、腸内で生成されるセロトニンの約9割は腸で作られており、これが感情の安定や幸福感に深く関係しています。
腸内環境が乱れると、ストレス・不安・うつ症状が悪化することもあります。
本書では、「気分の浮き沈みの原因は脳ではなく、腸の中の細菌にあるかもしれない」と述べ、心身の健康を考えるうえで腸のケアを重視することを勧めています。
プレバイオティクス
プレバイオティクスとは、「善玉菌のエサになる成分」のことです。
食物繊維やオリゴ糖などが代表的で、腸内の有用菌を育て、腸内環境を整えます。
本書では、バナナ、にんにく、玉ねぎ、豆類などの食材がプレバイオティクスとして紹介されています。
著者は、「サプリメントに頼るより、自然な食事から腸内細菌を育てる方が、持続的な健康につながる」と述べています。
プレバイオティクスは、“菌を入れる”よりも“菌を育てる”考え方を象徴するものです。
プロバイオティクス
プロバイオティクスは、「体に良い働きをする生きた菌」を食べ物やサプリから摂取する方法です。
ヨーグルト、納豆、キムチ、味噌などに含まれる乳酸菌やビフィズス菌が代表です。
これらの菌は腸内に定着し、悪玉菌の繁殖を防ぎ、免疫や消化を助けます。
ただし、摂取してもすべての菌が腸に定着するわけではないため、日常的に摂り続けることが大切だと著者は説きます。
プロバイオティクスは、プレバイオティクスと併せて取り入れることで相乗効果が高まります。
糞便移植(FMT)
糞便移植(Fecal Microbiota Transplantation)は、健康な人の便を、腸内環境が乱れた患者の腸に移す治療法です。
これにより、善玉菌が再び定着し、難治性の腸炎や感染症が改善するケースがあります。
アダム・ハートはこの技術を「うんこの世界が医療に生かされた最たる例」と評しています。
FMTは、細菌が単なる汚物ではなく、“生命の再建者”になり得ることを示す象徴的な医療です。
ただし、倫理・安全面での課題も残されており、慎重な実施が求められています。
私たちの命を支える腸内細菌
腸内細菌は、私たちが食べた物を分解し、栄養を吸収可能な形に変え、免疫機能を整え、病原菌から体を守ります。
また、神経・ホルモン・代謝など、全身のあらゆる働きにも影響を与えています。
腸内細菌の多様性が失われると、アレルギー・肥満・糖尿病・うつ病など、さまざまな不調につながります。
著者は「私たちは一人の人間ではなく、何兆もの生命が共存する“移動する生態系”である」と語り、腸内細菌を理解することが、自分自身の健康を守る第一歩だと強調しています。
この本のまとめ
『うんこの世界』は、排泄物というタブーを通じて、「人間と細菌の共生関係」をユーモラスかつ科学的に描いた一冊です。
うんこは単なる老廃物ではなく、体内の細菌バランスや健康状態を映す鏡です。
細菌を敵視するのではなく、理解し、共に生きる視点を持つことが、真の健康につながると著者は伝えています。
つまり、「うんことは、私たちの内なる宇宙の報告書」であり、細菌たちは私たちの命を静かに支える“見えない同居人”なのです。


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