ルポ 食が壊れる 私たちは何を食べさせられるのか?

政治と経済

堤未果さん著書『ルポ 食が壊れる―私たちは何を食べさせられるのか?』を参考にしました。

世界経済フォーラム

世界経済フォーラム(WEF)は、スイスのダボス会議で知られる国際組織で、政治・経済・科学などのリーダーが集まり「世界の方向性」を議論する場です。

本書では、このWEFが掲げる「グレートリセット」という思想が、食の分野にも深く入り込んでいると指摘されています。

表向きは「持続可能な世界のための変革」とされていますが、実際には食料生産・流通・農地・種子までもが国際的な大企業や金融資本の管理下に置かれつつあり、人間の生存に関わる“食の主権”が失われていく危険を警告しています。

食のグレートリセット

「食のグレートリセット」とは、気候変動や食糧危機を口実に、世界規模で食の仕組みを再構築する動きを指します。

その中心には「人工肉」「昆虫食」「培養食品」などの新産業を推進する企業や投資家が存在します。

環境保護の名目で、従来の農業や畜産が「非効率で環境破壊的」と断罪され、代わりにテクノロジー主導の“食の産業化”が進んでいます。

著者はこれを「善意の仮面をかぶった資本による再支配」とし、食の安全や文化、地域農業が犠牲になると警鐘を鳴らしています。

培養肉の大量生産・大量消費時代がくる

培養肉とは、動物の細胞を人工的に培養して作る肉のことです。

環境負荷を減らすという建前で推進されていますが、本書ではその裏側に潜む危険性を指摘しています。

培養肉の生産には高額なエネルギーと化学物質が必要で、製造特許を握るのは一部の巨大企業です。

つまり、今後の「肉」が企業の所有物となり、特許料を払わなければ食べられない時代が来る可能性があるのです。

著者はこれを「食の民営化」=人類の命を市場に売り渡す構造だと強く批判しています。

遺伝子組み換えサーモン

アメリカやカナダでは、成長を早める遺伝子を組み込んだサーモンが「世界初の食用遺伝子組み換え動物」としてすでに販売されています。

堤氏は、これが「自然界の改造」を日常化させる第一歩だと警告します。

遺伝子操作は環境や生態系への影響が未知数であり、交雑による自然種の絶滅リスクもあります。

それでも企業は利益優先で拡大を続け、表示義務も曖昧です。

つまり私たちは知らないうちに、遺伝子組み換え食品を“食べさせられる”側に立たされているのです。

ゲノム編集

ゲノム編集は遺伝子組み換えとは異なり、DNAを狙って切断・改変できる技術です。

日本ではすでに「ゲノム編集トマト」などが市販されています。

本書では、この技術が規制の“抜け道”になっていることを問題視しています。

従来の遺伝子組み換え食品とは違い、ゲノム編集食品には表示義務がないため、消費者は知らずに食べてしまう可能性があります。

堤氏は「自然界の設計図を人間が操作し、命を管理する社会」はディストピアそのものだと警鐘を鳴らしています。

食が特許で支配されるディストピア社会

現代の「食の特許化」とは、種子、家畜の遺伝子、培養細胞などに企業が独占権を持つことを意味します。

農家が自家採種できなくなり、毎年企業から高額な種を買わされる構造が生まれます。

本書はこの流れを「食の民営化」「命の所有権の売買」と表現しています。

食べ物が特許で囲い込まれれば、企業がボタン一つで生産を止めることも可能です。

つまり「誰が食を支配するか」が、これからの世界の支配構造を決める鍵になると論じています。

ワクチンレタス

「ワクチンレタス」とは、植物の中にワクチン成分を組み込んで作られる、食べるタイプの医薬品です。

本書ではこの研究を“フードテックの暴走”として批判しています。

食べ物と薬の境界がなくなれば、私たちは知らないうちに薬を摂取させられる社会になります。

さらに遺伝子操作の安全性や、摂取量の管理も不透明です。

堤氏は「食べ物が薬になり、薬が食べ物になる社会」は人間の身体の自由を奪うと指摘しています。

アグリビジネス

アグリビジネスとは、農業を巨大産業として利益化する仕組みです。

種子・肥料・農薬・流通・データまですべてを企業が統合管理する形で、農家はその下請けにされてしまいます。

本書では、こうしたアグリビジネスが世界の食を支配する構造を詳細に描き、特にモンサントやカーギルなどの多国籍企業がいかにして食料政策に影響を与えてきたかを明らかにしています。

堤氏は「食を市場商品ではなく、生存の基盤として守るべきだ」と訴えています。

農業やめたら現金支給(イギリス)

イギリスでは環境政策の一環として「農業をやめた農家に補助金を支給する制度」が導入されました。

一見すると環境保護策に見えますが、本書ではこれを「農業の民営化を促す罠」としています。

農家が土地を手放すことで、大企業や投資ファンドが農地を買収し、デジタル農業や人工食料の拠点に転換していくのです。

堤氏は、こうした政策が「土から人を切り離し、食を機械に置き換える計画の一部」だと指摘しています。

SDGsには土壌という言葉がない

国連が掲げるSDGs(持続可能な開発目標)は環境や貧困に配慮した理想的な枠組みのように見えますが、本書では「土壌」という言葉が一度も登場しないことに注目しています。

人間の食と健康の根幹は“土”にあります。

土が汚れれば、作物も命も汚れます。

それなのに、SDGsが土壌を語らないのは、「テクノロジーによる解決」を優先し、自然の循環を軽視しているからだと堤氏は述べます。

つまり、環境運動の名の下に“自然の排除”が進んでいるのです。

世界にばらまかれるデジタル農業アプリ

現在、農業分野では「AIアプリ」「衛星監視」「土壌データ化」などが導入され、作物の生育から収穫までをデジタル管理する仕組みが広がっています。

表向きは便利で効率的ですが、本書ではこれが“食の監視網”になる危険を指摘しています。

アプリを提供する企業が農地データを独占し、農家の経営判断までも掌握するのです。

特に途上国では、このデジタル化によって農民が自立を失い、企業に依存する新しい植民地構造が作られています。

モンサントのデジタル農業計画

モンサント社(現バイエル)は、かつて遺伝子組み換え作物や農薬で世界を席巻しました。

現在はさらに進んで、農業のデジタル化を推進しています。

本書によれば、モンサントの新戦略は「種子の遺伝子データ+農地の気象データ+AI解析」を一体化し、農業を完全にクラウドで管理する計画です。

つまり、種をまくタイミングや肥料の量まで企業が決める未来が来ます。

堤氏はこれを「データを使った新しい食料支配」として強く警戒しています。

有機農業の伝道師・稲葉光國氏

稲葉光國(いなばみつくに)氏は、日本の有機農業を実践的に広めた第一人者です。

本書では、稲葉氏が提唱する「土と微生物を生かす農法」が、世界の食の再生の鍵として紹介されています。

彼の思想は「化学肥料も農薬もいらない、自然の力で土が作物を育てる」というもので、効率よりも“生命の循環”を重視します。

堤氏は、稲葉氏のような農家こそが、資本による食の支配に対抗する希望の存在だと述べています。

アメリカに潰された国産小麦を取り戻せ

戦後の日本では、アメリカの援助によって小麦が大量に輸入され、米中心の食文化が変えられました。

本書では「日本の国産小麦産業は、アメリカの穀物政策によって意図的に衰退させられた」と指摘しています。

学校給食でパンが普及したのも、その一環です。

堤氏は、日本の食の安全と独立を取り戻すためには、「国産小麦や在来種の復興」が欠かせないと強調しています。

食の自給は国の主権そのものであるという立場です。

地方分権一括法

地方分権一括法は、地方自治体の権限を拡大する法律ですが、本書では「食の主権を地域が取り戻すチャンス」として肯定的に紹介されています。

中央集権的な農業政策から離れ、各地が独自の農業・流通・教育を行えるようになることは、食の再生につながります。

堤氏は、地方分権を“食の民主主義”への第一歩と位置づけ、行政よりも市民・農家・消費者が主体になる社会を提案しています。

主役は微生物

堤氏が最も重視するのは「土の中の微生物」です。微生物が土を豊かにし、作物を育て、人間の健康を支えています。

農薬や化学肥料によってこの微生物が失われると、食も人も弱っていくのです。

著者は「国力は土力であり、土力は微生物の力である」と述べ、微生物を中心にした農業=アグロエコロジーを再興すべきだと訴えています。

アグロエコロジー

アグロエコロジーとは、農業を単なる生産ではなく、生態系の一部として捉える思想・実践です。

化学肥料や遺伝子操作に頼らず、自然の循環を尊重し、地域の知恵と多様性を活かします。

本書では、アグロエコロジーを「資本主義型農業への対抗軸」として紹介しています。

効率よりも命のバランスを重視し、農家と消費者、土と人間が共に生きる新しい社会のビジョンとして描かれています。

食べ物を知る権利を取り戻す

堤氏は「食べ物を知る権利」を人権の一部と捉えています。

何がどこで、どんな方法で作られ、どんな成分が入っているかを知ることは、生きるために不可欠な情報です。

ところが、ゲノム編集や添加物、輸入食品の実態は不透明なままです。

本書は「知らされないまま食べさせられる社会」を批判し、市民が学び、選び、声を上げることの重要性を訴えています。

食を取り戻すとは、情報と主権を取り戻すことでもあるのです。

この本のまとめ

『ルポ 食が壊れる』は、食の未来を“企業とテクノロジーが支配する時代”への警告書です。

気候危機を口実に進む食のグレートリセット、培養肉やゲノム編集などの新技術、農業デジタル化によるデータ支配―それらは一見「進歩」に見えて、実は命と自然を切り離す計画です。

堤未果氏は、これに対抗する道として「土・微生物・地域・農民」を軸にしたアグロエコロジーを掲げます。

人間が自然の一部として生きるために、私たちは“食べ物を選ぶ力”“知る権利”“作る自由”を取り戻さなければならない―それがこの本の核心です。

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