低血糖の定義と体の仕組み
低血糖とは、文字通り血糖値が低い状態を指します。
血糖値とは、血液中に含まれる主要なエネルギー源であるブドウ糖(グルコース)の濃度のことです。
通常、血糖値は70から140mg/dLの範囲に収まるようにホルモンによって調整されていますが、何らかの原因で70mg/dLを下回ると低血糖と定義されます。
低血糖状態は、体にとってエネルギー源が不足している、つまりエネルギー不足の状態であり、全身に影響を及ぼします。
この状態は、基準値より高い高血糖と比べて、非常に危険であり緊急を要する事態とされています。
通常、私たちの体は食事から得た糖分(グルコース)の一部をグリコーゲンとして肝臓に蓄えており、食後数時間が経つとこのグリコーゲンを分解して血糖を維持します。
グリコーゲンが枯渇すると、筋肉由来のアラニンなどのアミノ酸を利用して肝臓でブドウ糖を作り出す「糖新生」という経路が使われます。
この際、ケトン体が一緒に生成されます。
低血糖の主な症状
低血糖は身体の不調だけでなく、メンタルにも様々な症状を引き起こすことが分かっています。
低血糖の症状は、意識がなくなる、痙攣、冷や汗などがあります。
さらに、体がエネルギー不足を脱しようと血糖値を上げるホルモン(アドレナリンやノルアドレナリンなど)が分泌されることで、交感神経が優位になり、以下のような多様な症状が現れます。
身体的な症状
- 異常な疲労感や疲れやすさ、倦怠感
- 動悸、冷や汗、手足の震え、しびれ
- 頭痛、めまいやふらつき
- 睡眠中に悪夢を見る、夜中に目覚める(中途覚醒)
精神的・感情的な症状
- イライラしやすさ、キレやすさ。
- メンタルが不安定になる、怒りや憎しみ、復讐願望、自殺願望といった感情の起伏が激しくなる。
- 抑うつ症状や不安症。重症化すると、パニック障害と診断されるケースもあります。
- 集中力の低下、落ち着きのなさ。
食習慣や生活の傾向
- 甘いものへの依存が強い(手っ取り早く血糖値を上げるものを好む)
- 早食いの傾向がある。
- 朝、食欲がない、または起きられない(交感神経優位により胃腸の動きが止まるため)
低血糖の種類と原因
低血糖は、主に食事や生活習慣に起因するタイプと、特殊な疾患や治療に伴うタイプがあります。
機能性/反応性低血糖症
最も一般的な低血糖症であり、食生活によって血糖値の乱高下を繰り返すうちに、血糖を保つ機能が弱くなってしまった状態です。
精製された糖質や甘いもの(砂糖、ジュースなど)を摂取すると、血糖値が急激に上昇し、これに対して大量のインスリンが分泌されます。
その結果、血糖値が急激に下がり、正常な空腹時血糖値よりも低くなってしまう現象です。
子どもが糖質が多い食事(パンとジュース、シリアルのみの朝食など)を摂ると、この血糖値の乱高下が起こりやすく、朝起きられない原因になることがあります。
ケトン性低血糖症(小児独特の病気)
主に1歳半から5歳程度の小児に多く見られ通常は10歳頃までに自然に治ることが多い病気です。
疲労(夕方に激しく遊ぶなど)や風邪などの体調不良によって長期間の絶食(12時間以上)が起こり、体内のグリコーゲン貯蔵が枯渇することで低血糖に陥ります。
低出生体重児や食が細い子どもに多く見られます。
診断と検査
低血糖の診断には、まず血糖値の測定が必要です。
低血糖を繰り返す場合は、高インスリン血症、下垂体機能低下、副腎皮質機能低下、糖代謝異常など、様々な病気を否定する必要があります。
そのために、血糖測定と同時に、血清検査や尿検査でケトン体、遊離脂肪酸、乳酸、アンモニアなどを測定する「クリティカルサンプル」と呼ばれる採血検査が重要とされています。
低血糖症の検査として、経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)が用いられます。
特に低血糖症を調べるためには、通常2時間で終了する糖尿病の診断時とは異なり、6時間かけて血糖の流れを観察することがポイントです。
低血糖の対策と予防
低血糖の治療はシンプルに糖分を補充することですが、意識があれば口から、意識が朦朧としていれば点滴からブドウ糖を投与します。
しかし、治療以上に大切なのは、同じことを繰り返さないための予防です。
食事と栄養の改善
長時間空腹を避ける
長時間の空腹を避け、特に朝食をしっかり摂ることが重要です。
低血糖がある場合、16時間断食などの健康法は避けるべきです。
捕食(間食)の活用
3食だけでなく、血糖値が下がりやすい夕方、特に昼過ぎ(15時頃)に捕食を摂ることで、エネルギーの貯金が枯渇しないようにします。
捕食には、おむすび、干し芋、甘栗などの良質な糖質を含むものが良いとされます。
血糖値の乱高下を防ぐ
精製された砂糖や甘いジュースは吸収が早すぎるため、急激な血糖値の上昇と下降を引き起こします。
低血糖の症状が出たときに、すぐに甘いものを摂るのは短期的な応急処置にはなりますが、長期的に見ると血糖値の安定機能を壊し逆効果になります。
バランスの取れた食事
吸収が緩やかな糖質(玄米、雑穀米など)を選ぶとともに、タンパク質や野菜を摂取し、バランスの取れた食生活を送ることが大切です。
納豆ご飯は、食物繊維とタンパク質により糖の吸収が緩やかになるため推奨されます。
栄養素の補充
糖の代謝にはビタミンB1が必須であり、ビタミンB群はエネルギー代謝や脳・神経機能の維持に重要です。
また、マグネシウム、亜鉛、ビタミンCなどのミネラルも摂取することが重要です。
糖新生のサポート
タンパク質(アミノ酸)は、血糖値を上げるホルモンや精神安定に役立つホルモン(セロトニンなど)の材料となるとともに、肝臓でブドウ糖に変換される糖新生の材料にもなります。
MCTオイルの活用
中鎖脂肪酸であるMCTオイルは、エネルギー源として利用されやすく、副腎をケアする栄養素としても良いとされています。
避けるべきもの
カフェインとアルコール
カフェインは一時的にアドレナリンなどを出して元気にする作用がありますが、低血糖を進行させる恐れがあるため控えるべきです。
アルコールは糖新生を抑制するため、低血糖になりやすくなります。
糖質制限
低血糖症の治療法として安易に糖質制限を実施するのは避けるべきです。
糖質は生体の主要なエネルギー源であり、これを抜くことは根本的な解決にならず、かえって悪化するケースが多いとされています。
生活習慣の改善
風邪をひいている時やスポーツの時など、体が糖分を必要としている時にはしっかり補充することが大切です。
規則正しい生活習慣を身につけ、ストレスをできるだけ回避することが、副腎疲労を防ぎ、血糖コントロールを安定させる上で重要です。
低血糖を改善するためには、急激な血糖値の変動を避けることが、まるで不安定な振り子をゆっくりとした動きに戻すように、身体と心の安定につながるのです。


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