咀嚼と健康

健康

咀嚼(よく噛んで食べる行為)は、健康、美容、ダイエット、認知機能に至るまで、全身に多大な影響を与える非常に重要な行為です。

ここでは、咀嚼のメカニズム、効果、そして実践方法について詳しくご説明します。

咀嚼の定義とメカニズム

咀嚼は、食べ物を口の中で噛み砕く運動(咀嚼運動)であり、この運動と同時に分泌される唾液の成分の複合的な効果が体にもたらされます。

消化吸収の補助

咀嚼によって食べ物を細かく砕き、消化の負担を減らすことができます。

食べ物を細かく砕いた状態で胃に運ぶことにより、その後の分解プロセスが早まります。

唾液には消化酵素(特に炭水化物を分解するアミラーゼなど)が含まれており、食べ物と唾液をよく混ぜて胃に送ることで、消化吸収がスムーズになります。

特に炭水化物が多い食材ほど、よく噛んで唾液を出し、食べ物と混ぜることが重要です。

ご飯を噛んでいると甘みが出てくるのは、消化酵素が働いたサインです。

全身の機能との連動

咀嚼は口周りの咀嚼筋だけでなく、舌の筋肉や頭全体の筋肉(顔の筋トレ)を使用します。

咀嚼により、口から食道、胃、腸へとつながる管全体(筋肉でできている)が連動して動き、胃腸の運動が活発になります。

咀嚼は胃腸を動かすためのスイッチであると言えます。

咀嚼がもたらす多様な健康効果

咀嚼は、単に消化を助けるだけでなく、身体のさまざまな機能に良い影響を与えます。

脳機能と認知症予防

咀嚼によって脳が刺激され、脳の働きを活性化させます。

噛む行為は五感全ての情報が脳に送られるため、脳の多くの部位が同時に活性化します。

咀嚼は脳の血流を上げる効果があり、集中力向上にもつながります。

認知症(特に短期記憶の維持・改善)の予防に効果的であることが、多くの研究で示されています。

高齢者になってからでも意識的に咀嚼運動に取り組むことは、短期記憶の維持・改善に有用であると結論付けられています。

残存歯数(残っている歯の数)が少ない人ほど、認知症の発症リスクが高いという研究結果もあります。

代謝向上とダイエット効果

咀嚼は、食後のエネルギー消費量(食事誘発性熱産生; DIT)の増加に寄与します。

食べ物が口の中に留まる時間が長いほど、食後のエネルギー消費量が多くなるという研究結果があります。

よく噛んで食べる人と早食いの人では、エネルギー消費量に25倍もの差が出る可能性があるというデータもあります。

年間で体脂肪が1.5kgから3kg程度減少するほどの効果があると試算されています。

咀嚼は満腹中枢を刺激し、食欲をコントロールします。

これは、神経ヒスタミンという神経伝達物質が脳の視床下部から放出され、満腹中枢に働きかけて食欲を抑えるため、即座に効果が出るとされています(胃の膨張による15分程度のタイムラグがない) 。

咀嚼は食欲を増進させるホルモンであるグレリンの分泌を減らし、満腹感を感じやすくするコレシストキニンの分泌を促します。

神経ヒスタミンは、内臓脂肪を特異的に分解したり、褐色脂肪細胞を活性化させて体脂肪の燃焼を促す効果もあります。

免疫力と感染症予防

咀嚼回数が減ると唾液量が減少し、唾液に含まれる免疫グロブリンA (IgA)という物質が減ってしまいます。

IgAは「口の中の門番」とも呼ばれ、体外からの病原体に対する「ミサイル攻撃」のような役割を果たします。

よく噛んで唾液を出すことで、IgAが増加し、感染症にかかりにくくなる(免疫力が向上する)ことが証明されています。

自律神経とメンタルヘルス

咀嚼は自律神経(交感神経と副交感神経)のバランスを整えます。

リラックスした状態(副交感神経が優位)になると、唾液の質が良くなり(サラサラした唾液)、消化吸収もスムーズになります。

朝、しっかり噛んで食べることで、脳内でセロトニンが活性化します。

老化予防と美容

唾液には若返りホルモンと呼ばれるパロチン(成長ホルモンの一種)が含まれています。

パロチンは細胞を活性化し、筋肉減少の予防やお肌の新陳代謝を活性化する効果があります。

咀嚼は顔面の筋トレになり、顔全体の血流を良くすることで、肌ツヤや透明感を向上させ、二重あごやほうれい線など顔のたるみが出にくくなる効果も期待できます。

口腔衛生とその他

唾液にはデトックス効果があり、添加物や農薬など体に入れたくないもののリスクを減らし、悪いものを排出しやすくする効果があります。

唾液が増えると、虫歯や歯周病になりにくい口腔環境が作られ、口臭予防にもつながります。

よく噛むことは、窒息のリスクを減らすという食事の安全性の観点からも重要です。

現代の咀嚼の現状と推奨される実践方法

現代人は、柔らかい食べ物が増えたことや忙しい生活によって、噛む回数が大幅に減少しています。

かつて弥生時代には1回の食事で約4000回噛んでいたのに対し、現代人は約600回程度しか噛んでいません。

食事時間と回数の目安

1回の食事時間

最低20分、できれば30分程度を目標にする。15分未満は早食いと見なされます。

一口の咀嚼回数

一般的に30回が推奨されます。ただし、硬い固形物で消化不良を起こさないための理想的な回数です。

意識の向け方

回数を数えるよりも、味覚に意識を向けることが推奨されます。

咀嚼の質を高めるためのコツ

「味の変化」を意識する

ご飯など炭水化物を食べる際、噛んでいるうちに甘みを感じるまで噛み続けることを目安にします。

最初の一口だけは、特に意識して50回から100回噛むことを試すのも効果的です。

食べ方(好中調味)の工夫

ご飯(味がない)とおかず(味がある)を交互に口に運び、口の中で混ぜ合わせる「好中調味」は、咀嚼回数を増やすのに効果的です。

口の中で味の濃淡のムラがある状態を咀嚼によって均一にすることで、咀嚼が増えます。

チャーハン、炊き込みご飯、カレーライスなど、最初から味付けが均一になっている料理は、咀嚼が減りやすい傾向があるため、頻度を減らす(非日常食とする)のがおすすめです。

咀嚼を強制する食材を選ぶ

カレーライスやうどんなどのように「噛まなくても飲み込めるもの」ではなく、噛まないと飲み込めないものを選びます。

繊維質の多い野菜や、ナッツ類、パサつきのある鶏むね肉などが咀嚼を促します。

ご飯も、水分を控えて粒感があるように硬めに炊くか、雑穀を混ぜることで、噛み応えが増します。

環境と習慣の改善

一口のサイズを小さくし、一口食べたら箸を置く習慣をつけるのが効果的です。

食事の際は、リラックスし(副交感神経を働かせ)、「美味しい、楽しい、幸せ」といったポジティブな気持ちで食べるように心がけます。

ストレスを抱えながら、運転中やデスクでパソコンを操作しながらの食事は、副交感神経が働かないため、代謝の観点から避けるべきです。

食事の前に「美味しそう」と感じるなど、食べる準備運動を意識することも重要です。

咀嚼に関するその他の補足

食事時間外にガムを噛むことは、顎の筋力トレーニングとしては有効ですが、食事中の咀嚼がもたらす消化吸収やDIT増加といった栄養学的な効果とは意味合いが異なるため、食事中の咀嚼に注力することが最も重要です。

油物(ナッツやオイル)を避ける必要はありません。

ご飯と味噌汁が中心の食生活であれば、脂質の摂取量が少ないため、むしろおかずなどから自然に油を摂る方が良いとされています。

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